トリガーポイント研究所
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3-1 現代医学から取り残された「筋筋膜性疼痛症候群(MPS)」

「筋筋膜性疼痛症候群」というのは聞き慣れない言葉でしょう。しかしこの概念はすでに1980年代から知られており、私たちの腰痛や肩こりなどの様々な痛みやこりの95%は、この筋筋膜性疼痛症候群であるとされています。しかしこの症状に関して、科学的に信頼できる原因が明らかではなかったこと、診断基準も正式に認定されたものがなかったことなどから、現代医学から取り残された状態となっています。

その為、医学部でその事を学ぶ事もなく、また知り得たとしても筋筋膜性疼痛症候群の存在やそれを治療することの効果を信じていない医療関係者がほとんどです。そして未だに現代医学は「痛みの原因は骨や関節の異常説」の立場をとっています。

【混迷している疼痛疾患診断】

山下クリニック  山下徳次郎

(前略)

私は日頃、すでに他の施設で診断され治療を受けているにもかかわらず、痛みがなかなか改善しないといって当クリニックを受診する患者にしばしば出会う。
彼らが受けている診断名は、腱鞘炎、関節炎、変形性関節症、肩関節周囲炎、頚椎および腰権椎間板ヘルニアによる神経根症、脊柱管狭窄症など多岐にわたっているが、それらの患者のほとんどはMPSである。従って私は、適切な診断、治療を受けられずに困っているMPSの患者はかなりの数に上るに違いないと考えている。

(中略)

MPSが臨床医に認められない最大の理由は、MPSが画像診断、病理検査、血液検査など現代医学的診断で重要視されている客観的な所見として捕らえられないためであると考えられる。現在わが国の医学部の講座でこのMPSについて研究、教育しているところはほとんどない。MPSについて教育を受けていない医学部生は、卒業後もその存在を知ることなく診療を行うため、現実には多数存在しているMPSの患者たちを前にしながら、正しい診断、治療が行えないのである。

臨床医がMPSに無関心であることによってもたらされる弊害として重要なことは、TPがもたらす疼痛に対して他の疾患の診断が下されることである。診断が異なると治療も変わってくる。膝の痛みが軟骨の磨耗であるとなれば、最終的には人工関節置換術のような手術療法が行われ、二度と正座ができなくなるし、耐用年数を超えれば再手術が必要になる。腰下肢痛が神経根の炎症であるとなれば、治療には神経根ブロックが繰り返し行われるか、手術療法が行われる。しかし、このような侵襲の大きい治療が行われる一方で、疼痛の改善という目的は達成されない。MPSを正しく診断することができれば、鍼療法(TPA)とストレッチという侵襲のほとんどない方法で的確に疼痛を改善できるのである。

(後略)

(医道の日本 第730号 2004年 特集-臨床とトリガーポイント)

 骨と関節の日

日本整形外科学会では、毎年10月8日を「骨と関節の日」と定めています。その趣旨は「骨と関節を中心とする運動器官が、身体の健康および日常生活の質の維持にいかに大切であるかの認識向上を目的とする」としています。

つまり運動器官の中心的存在として「骨と関節」を挙げ、筋肉には言及していません。このことを見ても、現代医学が筋肉の影響を軽視している事が分かります。

その為多くの筋筋膜性疼痛症候群を患った人々は、何年治療を受け続けても、改善するどころか症状が悪化するばかりの生活を強いられています。場合によっては手術によって重い後遺症が残ったり、膝関節置換手術によって二度と正座ができなくなってしまうなど、人生の質が変わってしまった人々もいます。これらを客観的に見ると「骨と関節」が主役であることを前提とした医療に間違いがあることを示していると言えます。

痛みはトリガーポイントが原因

筋筋膜性疼痛症候群は筋膜や腱などにできた「しこり(トリガーポイントと言います)」が痛みの原因で、トリガーポイントの「トリガー」というのは、「弾きがね」と言う意味です。

そのしこりを押すとそれが弾きがねとなって、その場所だけでなく別の場所でも痛みを感じさせる事があるので、そう呼ばれています。

そしてそれが神経に沿って現れるわけではないので、神経痛ではなく「関連痛」と呼ばれています。そしてこの関連痛はトリガーポイントからかなり離れた部位にでも痛みを感じさせますので見過ごされてしまいがちですし、誤診を生んできた原因の一つでもあります。

しかし現在では、筋筋膜性疼痛症候群のトリガーポイントは、筋電図によって客観的に確認されていますし、超音波画像診断ではトリガーポイントのひきつりを確認することもできるようにもなりました。また、関連痛がどこに出てくるかというパターンも把握されてきたため、近年その治療効果は飛躍的に向上しています。

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)については別項も参考にして下さい。

4.トリガーポイントってなに?
5.トリガーポイントが起こす様々な症状
6.トリガーポイント療法

痛み治療には筋筋膜性疼痛症候群の視点が欠かせない

トリガーポイントが起こす関連痛の視点がなければ、痛む所だけへの治療に終始することになり、痛みは改善することなく、悪化の一途をたどり、仕事を休んだり、辞めたりするような事態となったり、家事がほとんどできなくなるなど、人生の質を大幅に低下させてしまいます。

(参考)看護師の腰痛体験記(筋筋膜性疼痛症候群の視点のない治療で腰痛が治らずつらい日々を過ごされた方の体験記)

そしてさらに痛みは「慢性痛症化」して行きます。慢性化すると言うのは、単にいつまでも治らないという事だけでなく、筋膜や関連痛の連鎖によって痛みが拡がって行くと共に、中枢(脳)へ影響を与え始め、「慢性痛症」という新たな病気が生まれます。

慢性痛症は、神経系の可塑的変容が原因であることがわかり、痛みの概念に大きな変革が起こった。正常時には他の系と独立に働いている痛覚系が、他の神経系と混線状態を起こした状態に変化してしまい、この状態が慢性痛症であると考えられる。
熊澤孝朗(生理学者)

そもそも医師の処置が正しいのかどうかを論ずる前に、多くの医療者のなかに慢性痛や筋肉に関する概念がほとんどないというのは悲しい現実である。「痛み止めと湿布で様子をみましょう」、この不適切な処置を続けることは、ある意味、患者放置、医療放棄と言えよう。この放置期間中にも慢性痛は悪循環路線を進み、どんどん悪化の一途をたどっていくこととなる。

松原貴子(名古屋学院大学人間健康学部リハビリテーション学科講師)

従って、痛みは早期に解決しなければならないのですが、残念な事に「筋筋膜性疼痛症候群」の視点で治療を行っている所はほとんどないというのが現状なのです。

 

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