この項では痛み改善のポイントについて解説しますが、自己治療される場合も、医療機関や治療院などで治療を受けられる場合にも参考にされて下さい。
1)トリガーポイントの大きさや硬さにとらわれない。
痛みが生じると身体のあちこちを触り、痛みの原因を捜すために、大きなしこり(トリガーポイント)や硬くなっている所を捜しますが、実は、トリガーポイントが引き起こす痛みや感覚の異常などは、トリガーポイントの大きさや硬さに比例するのではなく、トリガーポイントがどれくらい過敏になっているかによります。
大きくて硬いトリガーポイントが強い痛みを感じさせるとは限らず、柔らかな組織の中にある、米粒よりも小さなトリガーポイントが、身動きできないほどの痛みを生じさせる事があります。
従って、小さくて目立たないトリガーポイントでも、ちょっとした刺激で痛みを強く感じるような過敏性のあるトリガーポイントを見つけて緩和する事が肝心です。
2)過敏性、過緊張を低減させる。
トリガーポイントが過敏になっていますと、痛みも強く感じますし、感覚の異常も強くなります。それと共に、トリガーポイントを含んでいる筋の過敏性も増し、筋の緊張が増し体液の循環が低下します。体液の循環が低下しますと、筋組織は酸素や栄養を受け取り難くなり、回復力が低下します。また老廃物が蓄積し痛みを増強して行きます。
痛みはトリガーポイントを過敏にし、筋を緊張させますので、「痛みの悪循環」が出来上がってしまいます。
そこで痛みを改善するのに最も大切なのは「過敏性」や「過緊張」を低減させることだという事になります。
3)過敏性や過緊張をもたらす原因は何か?
ちょっとした刺激でも強い痛みを感じたり、痙攣を起こしてしまうようになるトリガーポイントの過敏性や筋の過緊張が生じるには次のような要因が考えられます。
- 筋への過負荷(特に姿勢筋)や障害(ケガ、事故、手術など)
- 関節の「あそび」の減少
- 内臓機能の低下
- 骨膜点のバリア
- 皮膚の過敏性
- 心理的葛藤
これらをチェックして解除して行くと、トリガーポイントの過敏性や筋の過緊張が緩和され、痛みや痙攣などがずっと楽に感じられるようになります。
①筋への過負荷や障害の解除法
筋への過負荷や障害に対する治療法は、筋膜リリースや指圧など様々ありますが、身体への負担が少なくて効果が高い治療法として、PIR(ポスト・アイソメトリック・リラクセーション)がお勧めです。
【実例紹介】
78歳の女性の方の例をご紹介致します。
この方はお若い時から肩こりや腰痛などを感じた事がなく、病院にもほとんど掛かった事がないという元気印の方だったのですが、数ヶ月前から腰から足に重い痛みが出るようになり、今では杖無しでは自宅でも歩けない状態になったという事です。
身体をチェックさせて頂いた所、臀部に過敏性がみられ、手で軽く押すだけでかなりの痛みを訴えられます。このような過敏性が見られる場合は、トリガーポイントに対して治療を行っても、効果は出にくく、効果が出たとしてもすぐに再発する事が多いのです。
そこで、臀部の過敏性を低減させる事を治療の最初に行いました。トリガーポイントの過敏性や筋の過緊張には、PIR(ポスト・アイソメトリック・リラクセーション)がとても効果的ですが、特に臀筋の緊張に対する効果は顕著に表れます。
PIRで臀筋の過敏性が無くなるとすぐに、この女性は、「あ、身体が楽になりました!」と言われました。臀部の緊張が全身に拡がっていたのです。施術後は杖無しで歩いて帰られました。
PIR(ポスト・アイソメトリック・リラクセーション)とは・・・
等尺性収縮後に生じるリラクセーションを活用した筋の弛緩法で、ごく小さな力で効果が出るため、痛みが強い方や高齢の方でも安全でしかも非常に効果的な治療法です。
PIRの効果としては次のような事が挙げられます。
①自分自身に動く必要があるため、治療への依頼心が低減する。
②自己治療でも行えるため、安心感と自信が生まれる。
③終端感覚のリセット
④動作制限の解除
⑤TPを含む筋のリラクセーション
⑥関節のモビライゼーション
⑦筋の促通
PIRは自己治療法として簡単に取り入れる事ができますので、ぜひ取り組んで頂きたい療法です。
②関節の「あそび」の減少
車のハンドルに「あそび」があるように、私たちの関節にも「あそび」があります。「あそび」があることで、強い刺激を吸収し関節の損傷を防ぎ、また滑らかな動きを生み出します。
この「あそび」が減少してきますと、筋に緊張が生まれます。これを「関節静的反射」と言います。
関節の「あそび」の減少は筋の緊張から来るように思われている方もあるかと思いますが、筋肉の緊張は運動を阻害しますが、関節の「あそび」は制限しません。
例えば、仙腸関節、脛腓関節、肩鎖関節は筋肉によって動かされる事のない関節ですが、関節の「あそび」は減少しブロックされた状態が生じます。この事が筋の緊張によって「あそび」が減少しない証明の一つです。
関節の「あそび」が減少しますと、その周囲の筋は緊張が亢進して行きます。その事によってトリガーポイントが生じた場合は、トリガーポイントを弛めても解決にならず、関節の「あそび」が回復することによってトリガーポイントも消失します。
基本的に関節は牽引(引っ張る)するとあそびが回復します。また指などの関節でしたら、揺らしたり、回旋させてもOKです。筋やトリガーポイントを弛めても効果が無かったり、効果が少ないように思える場合は、その周囲の関節を引っ張ったり揺らしたりして下さい。
③内臓機能の低下
内臓機能の低下から来る痛みや筋の緊張は、皆さんが思っている以上に影響が大きい要素です。胆石の方が右の肩が痛んだり、狭心症の方が左腕が痛んだりというのはよく知られている現象ですが、痛みとしては感じていなくても、内臓機能の低下は筋の緊張亢進をもたらしています。また、内臓機能の低下はリンパ液の循環を阻害し、筋の修復力を低下させたり、痛みを増強します。
内臓機能の低下はまずリンパ系ブロックとして現れ始めます。例えば大腿部外側面にしこりや圧痛が現れた場合は消化器系の機能が低下している現れで、このしこりや圧痛点をやさしくマッサージすると消化器系の機能が回復してきます。(Frank Chapman D.O)。
内臓機能の低下と体表面の変化について、整形外科医で全日本オステオパシー協会会長の高木邦彦氏が書かれた「ハンドブック チャップマン反射」の推薦のことばをご紹介します。
ハンドブック チャップマン反射(エンタプライズ刊) 「推薦のことば」
人体の内臓や器官に病的変化が起きると、それは体表面になんらかの警戒信号を発する。そして、その信号を認識し、術者が手を加えることで、病的変化を未然に防ぎ、治癒に導こうとする考えは、歴史的に見ても古くて新しい考え方である。
古い考え方の代表が中国鍼灸であり、新しい考え方としては、一般内科学でも胆石症のBoas点や、狭心症の際の左前胸部痛(圧痛)、虫垂炎の際のBlumberg徴候(圧痛)など、医療現場で使われているものも少なくない。
高木邦彦(米国オステオパシーアカデミー会員)
(日本整形外科学会専門医)
(全日本オステオパシー協会会長)
④骨膜点のバリア
筋や靱帯の張力が強く働く付着部には、骨膜のバリア(動きが悪く感じられる所)が見つかる事があります。 トリガーポイントが生じている筋や靱帯の周辺で生じているバリアを解除すると、その周囲の筋や靱帯がフッと弛みます。
⑤皮膚の過敏性
皮膚の張力が亢進すると、痛覚過敏帯が生じる事があります。皮膚の痛覚過敏帯が生じますと、その周囲の筋や靱帯、骨膜なども緊張が亢進します。
皮膚の過敏性は軽く皮膚を伸ばす事で解除できます。
⑥心理的葛藤
長期にわたって痛みに苦しんでおられる方は、医療機関、代替医療(鍼灸・整骨院・カイロ・整体など)をあちこち巡ったにもかかわらず、痛みが良くなる気配がないことに絶望したり、怒りを覚えたりした経験をお持ちでしょう。
また、仕事を休んだり、辞めざるを得なかったり、家族関係に亀裂が入ったりと、社会的立場、経済的な問題、家族関係など、痛みの為にさまざまなトラブルも生まれ、そのストレスも痛みの慢性化や増強に大きく関わっています。
そこで、これらの思いを、胸の内に秘めておくのではなく、誰かに話す事がとてもたいせつです。つらい思いや怒りを率直に語ることで、心が軽くなり、痛みや不調が緩和されます。できれば治療をしていただいている方に受けとめていただくことが効果的なのですが、患者さんのお話を受け容れて聴いていただけるケースは少ないので、カウンセリングを受けるという方法もあります。
4)治療は自分が主役
痛み治療は日常的に筋のトラブルを防ぐ為に自己管理する事が重要な要素ですが、特に慢性化してなかなか治りにくくなった方には特に必要になります。
そこで、まず痛みに振り回されない事を決意しましょう。痛みが長年続きますと、常に痛みの事が思考の大部分を占めるようになり、不安や気分の落ち込みをもたらします。
特に「椎間板ヘルニア」「変形性膝関節症」などの診断を受け、手術を勧められているような場合は、手術への不安感などでさらに痛みが治りにくくなります。
医療機関で「椎間板ヘルニア」などの診断を受けられているような方は、当サイトを熟読して頂いたり、加茂淳先生の「トリガーポイントブロックで腰痛は治る!」や、長谷川淳史先生の「腰痛ガイドブック 根拠に基づく治療戦略(CD付)」などを読んで頂き、椎間板ヘルニアなどの構造的な変化が痛みに直結しているわけでは無いことを確認して下さい。
構造的な異常が原因であれば「いずれは手術・・・」と言うことが常に頭の片隅にありますので、思考が痛みから離れられなくなりますが、「痛みは筋のトラブルに過ぎない!」という考え方に書き換えますと、「トラブルなら自分でも解消できる!」という前向きのエネルギーが湧いてきます。
次に筋のトラブルを減らし、筋の修復力を増すために、毎日のお手入れを行いましょう。
1日に5分でも10分でも継続して行う事で、治療を受けた際の治療効果が上がりやすくなりますし、再発を抑える効果が増してきます。
目次
- 1.日本の痛み医療は遅れている!?
- 1-1 現代医学は痛みの原因のとらえ方を間違えています。
- 1-2 今までの「痛み常識」を疑ってみる
- 1-3 画像診断は役に立たない
- 1-4 構造的アプローチから機能的アプローチへ