不定愁訴(自律神経失調症)は、日本心身医学会によりますと「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と暫定的に定義されています。
この病気は日本では広く認知されているもののDSM(アメリカ精神医学会の定めた、精神科医が患者の精神医学的問題を診断する際のガイドライン)では定義されていません。 我が国の医学界でも病気としては認めていない医師もあります。
日本心身医学界の定義に「臨床検査では器質的な病変が認められず」とありますように、原因がはっきりしないが、患者はつらい症状を訴え続ける、と言った場合に使われている病名だといえます。
原因がはっきりしないのですから、治療法もこれと言ったものがなく、「ストレスをためないようにしなさい」「軽い運動をして下さい」などのアドバイスと、安定剤やビタミン剤が投与される程度の事が多いのです。
また、心理的要因が大きいとされているため、心療内科への紹介が行われる事もありますが、長期間通院してもなかなかすっきりしないという事が多いようです。
不定愁訴の発生要因としては、①交感神経の持続的緊張 ②ホルモンのアンバランス ③低体温 などが挙げられますが、筋膜や骨膜などに生じるトリガーポイントによって起こされているものが数多くあります。
次の表は「自律神経失調症状」とされるものですが、これらのほとんどが、トリガーポイントによって引き起される症状と一致します。
赤字で表示した症状はトリガーポイントが引き起こす症状の中でもポピュラーなものです。
自律神経失調症状
全身症状 | つかれやすい、だるさ、不眠、食欲不振、めまい、立ちくらみ、微熱、フラフラする、カラダがほてるなど。 |
頭 | 頭痛、頭が重いなど。 |
目 | 目が疲れる、痛い、開かない、ドライアイ、涙目など。 |
耳 | 耳鳴り、耳詰まり感など。 |
口 | 虫歯では無い歯の痛み、口が乾く、口の中が痛い、舌痛症、味覚がおかしいなど。 |
のど | のどがイガイガする、つまる、異物感がある、空咳など。 |
呼吸器 | 息切れ、息苦しいなど。 |
心臓・血管 | 胸が苦しい、胸が痛い、動悸、不整脈、血圧の変動など。 |
消化器 | 吐き気、便秘、下痢、お腹が張る、胸焼けするなど。 |
皮フ | かゆい、乾燥する、汗がたくさんでる、汗がでない、冷や汗など。 |
筋肉・関節 | 肩や首がこる、痛い、関節がだるい、力が抜ける、力が入らないなど。 |
手足 | しびれ、痛み、冷え、ほてりなど。 |
泌尿器 | 頻尿、残尿感、尿が出にくいなど。 |
生殖器 | かゆい、インポテンツ、月経不順など。 |
精神症状 | イライラする、気がめいる、おこりっぽい、集中力や意欲がない、やる気がでない、注意力がない、ささいなことが気になる不安感が強いなど |
めまい、立ちくらみ、ふらふらする⇒胸鎖乳突筋のトリガーポイント
女性で多い症状が、頭痛や肩こりですが、頭痛や肩こりに伴って、めまいやふらつきを訴える方も多くいます。痛みやこりも辛い症状ですが、めまいやふらつきも不快な症状です。
めまいには難聴など、耳鳴りなどの聴覚症状を伴う「メニエル氏病」、頭を特定の方向へ動かすと目が回りだす、「良性発作性頭位めまい症」などがありますが、これと言った治療法がなく、辛い症状を長年抱えている方も多いようです。
そして、このめまい・ふらつきも、頸部の胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)や僧帽筋にトリガーポイントが生じた時に起きる代表的な症状のひとつです。
(胸鎖乳突筋のTP)
(僧帽筋のTP)
頭痛、頭が重い⇒頭部、頸部及び肩胛帯諸筋のトリガーポイント
頭痛、頭が重いなどの症状で代表的なものは「胸鎖乳突筋」や「僧帽筋」のトリガーポイントですが、「半棘筋」や「後頭下筋など多くのトリガーポイントが関与します。
(僧帽筋のTP)
(頭半棘筋・頸半棘筋のTP)
(後頭下筋のTP)
耳鳴り ⇒咬筋のトリガーポイント
噛む筋肉である咬筋にトリガーポイントが生じると、耳鳴りを起こすことがあります。
耳鳴りの症状がある方は、咬筋を押すと音程が変わったり音の質が変わる事があります。
咬筋のトリガーポイントは耳鳴りを起こしますが、聴力の低下は起こさず、逆に胸鎖乳突筋は耳鳴りを伴わない聴力の低下を起こすとされています。
(咬筋のTP)
息切れする、息が苦しい
胸の側面にあります前鋸筋や、背部の腸肋筋にトリガーポイントが生じると、それらの筋が過緊張状態となり肋骨の動きを制限するようになります。
そのため、呼吸がし難くなり、「息苦しい」「息切れする」「空気が足りない」と言った訴えを起こすようになります。
また、呼吸運動の主役であります「横隔膜」にトリガーポイントが生じると、潜在的な痛みであっても、無意識的にその動きを制限するようになり、やはり「息苦しい」などの症状を起こします。
(前鋸筋のTP)
胸焼けする、お腹が張る
これらの症状は腹斜筋上部のトリガーポイントが活性化した時によくみられる症状です。また、この腹斜筋や腹直筋上部に活性化したトリガーポイントがありますと、背中の中央付近で強い痛みを感じさせます。ゴルフのスイングをしたり、寝返るなどの動きで背中が痛んだり、背中に強いこわばりを感じたりします。
(外腹斜筋のTP)
(腹直筋のTP)
イラスト図出典:『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用
目次
- 1.日本の痛み医療は遅れている!?
- 1-1 現代医学は痛みの原因のとらえ方を間違えています。
- 1-2 今までの「痛み常識」を疑ってみる
- 1-3 画像診断は役に立たない
- 1-4 構造的アプローチから機能的アプローチへ