トリガーポイントを不活性化するには、
①トリガーポイントに直接アプローチする方法
②トリガーポイントを含む筋・筋膜全体にアプローチする方法
③筋の神経的作用を使ったりバランスを整えるなど、間接的に治療する方法
など様々な治療法があります。
①トリガーポイントに直接アプローチする方法
①-1 局所麻酔注射(トリガーポイント・ブロック注射)・鍼治療
①-2 虚血圧迫
①-3 触手療法②トリガーポイントを含む筋・筋膜全体にアプローチする方法
②-1 ストレッチ&スプレー(TPに冷却スプレーをしながらのストレッチ)
②-2 ストレッチング
②-3 筋膜リリース
②-4 深部圧搾オイルマッサージ
②-5 温熱療法③筋の神経的作用を使ったりバランスを整えるなど、間接的に治療する方法
③-1 PIR(ポスト・アイソメトリック・リラクセーション):等尺性収縮
③-2 カウンターストレイン
③-3 仙腸関節の機能障害矯正
③-4 操体法
①トリガーポイントに直接アプローチする方法
①-1 局所麻酔注射(トリガーポイント・ブロック注射)・鍼治療
ストレッチ&スプレーがし難い所や、ストレッチ&スプレーに対する反応が低い場合には、局所麻酔注射や鍼治療が効果を発揮します。
局所麻酔注射は筋筋膜性疼痛症候群(MPS)による疼痛の緩和において、まず第一に選択すべき治療法と指摘する研究者もおられます。
ペインクリニックの適応疾患のなかで、肩凝りや腰痛症に代表される筋筋膜性疼痛症侯群(myofascial painsyndrome:MPS)が占める割合は大きく、また、他の疾患においても二次的な筋緊張を生じている症例が多く存在する。
これら筋筋膜の異常に起因する疼痛、凝りに対しては、まずトリガーポイントへの局所注射から治療を開始するべきである。
ペインクリニックで用いる治療手技のなかで、このTPIは初歩的な手技のひとつと言えるが、最も普遍性に富んでおり、かつきわめて治療効果の高い治療法であると考える。
また、施術者の知識と経験の違いにより、その効果に大きな差異を生じる。
森本 昌宏 近畿大学医学部麻酔科学教室
トリガーポイントへの鍼治療でも同様の効果が得られる事が分かっており、関西医療大学の黒岩共一先生を中心とした「トリガーポイント研究会」では、鍼灸師の方々がトリガーポイントに対する鍼治療の研究をされています。
①-2 虚血圧迫
虚血圧迫というのは、トリガーポイントを不活性化させるための手技です。
まずロープ状になった筋の緊張体を捜し、その中に感覚が過敏になっている部分、トリガーポイントが生じている所を捜します。その部位を逃がさないようにしっかりと捉えて圧迫して行きます。
不快感が出る限界近くまで圧力を加えて、血流を一旦途絶えさせます。(20秒~1分間)
その後その圧迫を解放しますと、新しい血液が流れ込み、逆に充血の状態になり、これを行う事でトリガーポイントが不活性化して行きます。
トリガーポイントを弛めるには、押すよりもつまむ方がより効果的ですので、つまめる所はできるだけつまむようにします。
しっかり圧迫すると言っても、不快感や緊張が出ない事が重要です。緊張が出てしまうと、治療効果は期待できません。
通常ですと20秒ほど押し続けけて解放しますと、当初よりも痛みが和らいでいます。和らぎましたらもう少し圧迫を強めます。これを数回繰り返しますと痛みが軽くなって来ます。
また、4~5秒圧迫して2~3秒離す、また4~5秒圧迫して2~3秒離す・・・これを繰り返す方法も有効です。
3~4回目くらいまでは痛みを強く感じますが、4~5回目からは痛みが軽くなって来ます。
しかし虚血圧迫でもなかなか痛みが和らがない場合があります。そのような時は無理をせず、一旦温湿布な度で温めた後に行ったり、その部位を伸ばすストレッチングをするなど、別の方法をとる方が組織に負担が掛かりませんのでお奨めです。
【硬式テニスボールを使う】
虚血圧迫や筋膜リリースを行う際、指や肘等を使うことが多いのですが、自分で行う場合は、圧迫する為の力が入る為、身体に緊張をもたらし効果が少なくなりがちです。
そこで硬式テニスボールなどを使うと効果的に、虚血圧迫や筋膜リリースを行う事ができます。
テニスボールを床に置いて、その上に身体を預けると、体重で圧迫できますので、余計な力がいりません
①-3 触手療法
これは心臓外科医だった福増一切照さんが開発された方法で、痛みが過敏になったところを、じわーっとつまんだり抑えたりします。
10~20秒ほど経ちますと、当初の痛みが軽くなって来ます。そこでもう少し圧迫を加えます。
また10~20秒ほど経ちますとまた痛みが軽くなります。
これを繰り返すことで、感作された(過敏になった)状態が解除され、当初と同じ強さの刺激を加えても、痛みがかなり軽くなった事を実感できます。
虚血圧迫と違う点は、強くしない事です。「触手」という名前がついていますように、触れるような圧迫で過敏性を解除して行く方法で、時間は掛かりますが、筋への負担が軽く強い指圧が苦手な方や、治療などに過剰に反応するタイプの方にお奨めです。
②トリガーポイントを含む筋・筋膜全体にアプローチする方法
②-1 ストレッチ&スプレー
これは、トリガーポイントがある筋を他動的に伸展させながら、2~3回冷却スプレーを当てる方法です。
氷をあてて冷やす方法での代用も可能です。
この方法が優れている点は、トリガーポイントを正確に把握していなくても、どの辺りが緊張しているかをだいたい把握して、トリガーポイントの部分が伸ばされていればOKな事です。
また、広く多くのトリガーポイントに対して治療が出来るので、即効性と広範囲性があります。但し、冷却スプレーを近づけすぎると凍傷を起こしますし、冷やしすぎると逆効果です。
急性の場合は冷却ではなく、ストレッチと温湿布に反応することもあります。より慢性的なトリガーポイントに対しては、ストレッチとスプレーの両方が必要です。
②-2 ストレッチング
トリガーポイントが生じている筋は縮んでいますので、やさしく伸ばしてあげる事で、筋の緊張が緩和し血流が良くなり、痛みも楽になって来ます。
筋肉は急激に伸ばされますと、「ストレッチ反射」という防御の反応が生じ、逆に筋が縮みますので、ゆっくり伸ばす事が大切です。
ストレッチ&スプレー、トリガーポイントブロック注射、虚血圧迫など、一連のトリガーポイント治療を行った後のストレッチは、今まで縮んでいた筋を本来の長さまで伸ばすことになり、可動域が拡がると共に、筋のバランスを整える事になります。
可動域が拡がり、筋のバランスが整いますと、血液、リンパなど循環が改善し、痛みを緩和する効果があがります。この事は、治療効果を長く保つことにも繋がりますのでとても重要です。
従って慢性痛を抱えている方は、1日に1回は、無理のない範囲で全身の筋肉を伸ばしましょう。痛みの緩和と治療への反応の向上につながります。しかし単純に伸ばせばOKというわけではありません。左右の筋や前後の筋では縮み方に差がありますので、それを考慮しながらバランスを取って行くことが必要です。
【ストレッチの方法】
●左右差をチェックする。
身体を左右に倒すストレッチや、捩るストレッチをする場合は、ストレッチをする前に、左右の違いをチェックして下さい。●行き易い方から始める。
行きにくい方、痛みを感じる方は、トリガーポイントが存在していて、より縮んでいる可能性が高い方です。
従って、まず、行き易い方へ身体を動かして、その後縮んでいる方を伸ばします。そして行き易い方は、行きにくい方の2~3倍行うようにします。
●必ず反対方向もストレッチする。
例えば前屈をすると、腰や背中が伸びて気持ち良い場合、ついついこのストレッチばかりを行ってしまいます。しかし、前屈している時、腰や背中の筋は確かに伸びていますが、逆にお腹側の筋肉は短縮させらています。
気持ちが良いからと言って、同じ方向ばかりに動かすのは禁物です。必ず反対方向も伸ばしてあげて下さい。その方が筋のバランスも取れてきてより効果が上がります。
②-3 筋膜リリース
筋膜はコラーゲン線維と弾性線維で構成された組織で、この2つの繊維がひとつのユニットとして働いています。
コラーゲン線維は非常に強い繊維で永続性があり、ほとんど伸びない性質(粘性)を持っています。
弾性線維は、収縮性に富んでいて、1.5倍の長さまで引き伸ばすことができる性質(弾性)を持っています。
筋繊維が拘縮したり、筋膜が縮められた状態が続きますと、コラーゲン線維が膠着し、筋膜が短縮し制限が生じてきます。
この短縮した筋膜を圧迫したりストレッチして、制限を解放(リリース)することを「筋膜リリース」と呼びます。
コラーゲン繊維は永続性を持った強い繊維ですが、90秒以上持続圧をかけると弛み始め、元の状態に戻って行きます。
コラーゲン線維が弛むと共に、周辺の体液循環も促進され、痛み刺激が緩和し短縮した線維の損傷が改善されて行きます。
②-4 深部圧搾オイルマッサージ
これはゆっくりとしたストロークで行う深部のマッサージで、ロープ状になった筋を圧搾するようにほぐして行きます。
圧力を少しずつ増大させながら行うことによって、トリガーポイントが不活性化し、筋の硬結が解けてきます。
②-5 温熱療法
筋膜や腱などを結合組織と言いますが、この組織は細胞と基質というものから成り立っています。
基質は細胞間に存在する物質で、温度が低い時はドロドロとしたジェル状で、温められるとサラサラのオイル状に変化して、動きが滑らかになる性質を持っています。
また、筋痛症には乾熱よりも湿熱の方が効果が高いとされていますので、温かいシャワーを浴びたり、温湿布をすることが症状の改善に役立ちます。
特に虚血圧迫や筋膜リリース、そしてストレッチなどを行った後に、入浴したり、温かなシャワーを浴びたり、温湿布を行うなど、刺激した筋を温めるのはとても効果があります。
また、日常的に膝掛けやマフラーなどを使用して、トリガーポイントが活性化しないように工夫されて下さい。
症状がつらい方は、お風呂で充分に身体を温めて、気になる部分に温かなシャワーーを当てながらのストレッチや、就寝前に15分ほどの温湿布をすることが改善につながります。
③筋の神経的作用を使ったりバランスを整えるなど、間接的に治療する方法
③-1 PIR(ポスト・アイソメトリック・リラクセーション):等尺性収縮
等尺性収縮というのは筋の長さが変わらずに筋が収縮する事です。
⇒4-5 どんな時に痛むのか? を参照して下さい。
この等尺性収縮を行いますとその後にリラクセーションが訪れ、筋の緊張が緩むことが知られています。
この作用を利用して筋を弛めて行こうという事です。
等尺性収縮は筋肉には力が入り収縮をしますが、動きを伴いませんので、動かす事に不安がある場合や、筋の回復が遅れているような場合に用いるのも有効です。
やり方はとても簡単です。
例えば右の股関節の動きが悪く内側に倒しにくいとしましょう。
- 仰向けに寝て右膝を立て、左足にクロスするように引っかけて、内側に倒して行きます。
- 途中でこわばりが出てきますのでそこで止めます。
- その位置から膝を元に戻す動きをしますが、その時に手でストップを掛けて戻させないようにします。
- この時、戻そうとする力は20~30%ほどの小さな力で行い、7秒~10秒ほどその位置を保ちます。
- 7~10秒経過しましたら、息を吐いて脱力します。
- もう一度倒してみますと、最初よりも少し倒しやすくなっていますので、それを確認します。
- しかしさらに倒して行きますと、またこわばりが出てきますので、その位置から再度同じように行います。
- これを効果が出なくなるまで行います。
- 最後に無理のない範囲で最大限に膝を内側に倒してストレッチします。
- 反対側も同様に行います。
③-2 カウンターストレイン
カウンターストレインは、過緊張となっている筋と拮抗関係にある筋を伸ばすことで、過緊張を緩めるという、間接的なテクニックです。
【パニック反応】
重いと思って持ったら軽かった。脚を滑らせた。等、予期しない急激な運動を強いられた時に、筋の長さをモニターしている「筋紡錘」という感覚受容器に誤差が発生し、筋の緊張が続いたままになることがあります。
その為、この筋を使った動きをすると、動作制限や痛みが発生します。
これをパニック反応と呼びます。
【誤作動をリセットする】
このようにして生じた過緊張の筋を弛めるために、この筋と拮抗関係にある筋を伸ばします。その事によって過緊張の筋は弛んできます。
これは次のような筋の反応を利用しています。
筋の長さをモニターしている筋紡錘が、「伸ばされた」という信号を中枢に伝達したときに、中枢はその筋に「縮め」という命令を出します。
同時にその筋と拮抗関係にある筋には「弛め」という信号を出します。
つまり過緊張となっている筋と拮抗関係にある筋をストレッチすると、過緊張の筋に「弛め」信号が入るので、過緊張していた筋が弛み筋紡錘の誤作動を解除出来ると言うことです。
筋紡錘の伸張受容器から中枢神経系に入るシグナルを減らして過緊張を緩める。
拮抗筋に軽い緊張を与える事で機能障害の筋紡錘を持つ筋肉を極端に短縮できる。
③-3 仙腸関節の機能障害矯正
仙腸関節は僅かに可動性があり、基本的には周囲の筋によって動く事はないとされています。
しかし周囲の筋に異常な緊張がある場合や転倒などで衝撃を受けた時に、この関節に僅かなずれが生じ、機能障害を起こします。
その痛みは腰部、大腿の外側面、臀部、仙骨部、腸骨陵、坐骨神経の支配領域など、広範囲に波及します。
【仙腸関節の機能障害チェック】
- 仰向けに寝て右膝を立てます。
- その右膝を開いて行きます。
- その時のつっぱり感や違和感を記憶します。
- 右足を元の位置に戻し、左膝を立てます
- その左膝を開いて
- つっぱり感や違和感をみて右膝の時と比較します。
- つっぱり感や違和感を感じた方を下にして横向きに寝ます。
- 上になった脚を軽く曲げて、下側の伸ばした膝のあたりに引っかけ膝が床につくようにします。
- 上体を開いてウエストの所で大きくねじり、そのままゆらゆらと揺らします。
- それを30秒から1分続け、その後違和感の消滅を確認します。
目次
- 1.日本の痛み医療は遅れている!?
- 1-1 現代医学は痛みの原因のとらえ方を間違えています。
- 1-2 今までの「痛み常識」を疑ってみる
- 1-3 画像診断は役に立たない
- 1-4 構造的アプローチから機能的アプローチへ