愛知医科大学の中に2002年から2008年までの間、「痛み学講座」が設けられました。その開講にあたって熊澤孝朗教授は次のように述べられています。
(前略)
「医療面から痛みをみると、欧米諸国より20年以上も遅れています。「我慢は美徳」の精神からでしょうか、日本の患者さんは耐えに耐えています。耐えるうちに新たに病気としての痛みが出現する可能性があることを知りません。悲しいことに医療従事者の多くも知りません。」
(後略)
「痛み」は臨床上最も頻度の多い訴えにも関わらず、痛み自体が死因になることが少ないため軽視されたままになっている。その為、社会的にも損失が認識されている慢性痛に対する、有効的な治療法は現時点ではない。
小松徹(愛知医科大学医学部麻酔科学/学際的痛みセンター)
そもそも医師の処置が正しいのかどうかを論ずる前に、多くの医療者のなかに慢性痛や筋肉に関する概念がほとんどないというのは悲しい現実である。「痛み止めと湿布で様子をみましょう」、この不適切な処置を続けることは、ある意味、患者放置、医療放棄と言えよう。この放置期間中にも慢性痛は悪循環路線を進み、どんどん悪化の一途をたどっていくこととなる。
松原貴子(名古屋学院大学人間健康学部リハビリテーション学科講師)
現在、我国では、筋骨格系疾患のほとんどが骨や関節の問題として扱われていることが常であり、筋痛症候群に対する理解は低い。筋痛を主訴とする筋痛症候群は長期間にわたり多種多様な症状を呈する慢性疾患である。その病態もすべてが解明されてはいない。
また臨床での診断法や治療法に至ってはやっと近年になって討議がはじまったばかりである。筋痛症候群に悩む患者は非常に多い、その患者の多くは現在の医療に対して余り期待をかけてはいない。「どうせ、どこへ行っても“治らない”から」というのが筋痛症候群の患者の口癖でもある。
辻井 洋一郎(名古屋大学医療技術短期大学部助教授)
筋・筋膜性疼痛症候群を患っている人はこれまでずっと辛い人生を送ってきた。
医師に診せても、そもそも診察する医師の大半が慢性の筋・筋膜痛の存在を信じていないのである。Devin Starlanyl
このように、多くの医療関係の方々が、現在の痛み医療の誤謬について指摘されています。これらを整理しますと次のようになります。
・学際的な取り組みがほとんど無い。
※学際的な取り組み:医師、看護師、理学療法士、職業訓練士、臨床心理士、薬剤師がチームを組んで痛みのケアに取り組む事。
・筋痛の概念がない。
これまでの痛み治療には「筋痛」の概念が無く、あったとしても、構造的な異常の2次的なものと 見なされている。
・現代医学は身体をユニットとして見ておらず、専門化されている。
この為、痛みを部分でしか見る事が出来ない為、治るべき痛みが治らずに慢性痛症化している。
例えば、痛みの発症、遷延化、増強には「心理的要因」が大きく関わっているにもかかわらず、痛みは整形外科、心の問題は心療内科の領域とされ、心と身体をユニットとして見る事が出来ていない。
・慢性痛症の概念がない。
医療従事者の多くが、痛みが慢性化すると、末梢感作や中枢感作が生じ、痛みが遷延化しているだけでなく、あらたな病気となって行くことを知らない。
目次
- 1.日本の痛み医療は遅れている!?
- 1-1 現代医学は痛みの原因のとらえ方を間違えています。
- 1-2 今までの「痛み常識」を疑ってみる
- 1-3 画像診断は役に立たない
- 1-4 構造的アプローチから機能的アプローチへ