トリガーポイントとは?腰痛・肩こり・関節痛などの痛みの原因です。

トリガーポイント研究所

治療法について Ⅲ(トリガーポイント・テクニック)

痛みやしびれ、そして不定愁訴の緩和にはトリガーポイントへのアプローチが必須ですが、目的とする症状の改善にはいくつかの治療法を状態によって適切に使いこなせることが必要です。

トリガーポイントが生じている所は、自己回復できなくなっていますので、施術によって自己回復できるように導く、という視点で施術を行って行きます。

1)トリガーポイントの見つけ方

トリガーポイントへアプローチするには、トリガーポイントを探し出せることが前提となります。
トリガーポイントを正確に見つけ出す手順は下記の通りです。

手順

・TPが出来ると筋繊維は短縮肥厚してロープ状の「索状硬結」となっています。
・索状硬結生じた筋に力を入れてもらうと、索状硬結の出来ている所は他の部位よりもピーンと張ります。
 ※筋繊維を横切るように触診すると分かりやすくなります。
・ロープ状の索状硬結を辿って行くとTPを見つける事ができます。
 ※TPの感作部位(過敏になっている所)が、真上に無かった場合は、真上からの押圧では、感作部位に当たらない為、痛みや「そこそこ!」という感じが出ずTPを見逃す場合があります。
 ※TPを斜めから押したり、横から押すと見つかります。
 ※つまめる所は、つまんでおいてコロコロ転がすと感作部位に当たり、探し出すことができやすくなります。

2)トリガーポイントへの直接的アプローチ

指や掌底などを使って押圧したり、手で挟んだりつまんだりして、TPを直接刺激することで自己回復を促します。
これは基本的な方法ですが、有効な方法です。

また、TPの存在を確認する際にも使いますので、指や手の感覚を磨く事が大切です。

ポイント

・腕などつまみやすい部位は出来るだけつまみます。
・腰部などつまみにくい部位は近くの骨などに押しつけるようにします。

3)KKR法(筋膜・骨膜連鎖調整法)

二点以上を同時に押圧して筋膜ラインやTPを調整する方法です。

筋膜、骨膜ライン上の2点以上を結ぶように押圧すると、筋や骨膜の硬結が溶けるように弛む現象が見られます。これは筋膜ライン上で情報伝達が行われているからです。

特に骨膜点(起始-停止・付着部)や硬結を結ぶと高い効果が見られます。

また、分節内のリンクでも互いに情報伝達が行われでいますので、同様の効果が見られます。

関連する押圧ポイント

①筋膜ライン上の2点以上を刺激する
②筋・筋膜-関連する脊椎
③筋・筋膜-関連する内臓
④筋・筋膜-関連する反射区
⑤内臓-関連する脊椎
⑥内臓-関連する反射区

4)深部感覚受容器反射テクニック

深部感覚受容器反射テクニックとは、深部感覚受容器が何らかの刺激に対して反射を起こしていて、それが筋の過緊張を生じさせ、自己回復が出来なくなったところにTPが生じているという視点で施術するという技術です。

反射とは

「反射」とは、刺激に対して無意識下で行われる反応の事です。
代表的な例として「逃避反射」が挙げられます。
熱いものに触った時に、「熱っ!」と意識するかしないかの間に手が離れています。
これは脳に熱さが伝わる前に脊髄に到達した時点で反射が起きて危険から逃避します。これを「脊髄反射」といいます。命を守る為の重要なシステムで、あらゆる反射に優先して反応します。

脊髄反射の機序

1,感覚受容器(皮膚、筋、腱など)
   ↓
2,求心性(感覚入力)神経
   ↓
3,脊髄内介在神経
   ↓
4,遠心性(出力)神経
   ↓
5,効果器(筋肉)

深部感覚とは

深部感覚は位置覚、運動覚、抵抗覚、重量覚により、体の各部分の位置、運動の状態、体に加わる抵抗、重量を感知する感覚である。深部知覚、深部覚、固有受容性感覚 proprioceptive sense、固有覚ともいわれる。これらの感覚の基礎として存在するのが関節、筋、腱の動きの感覚である。

Wikipedia

深部感覚受容器反射

ケガや栄養不足などによって、受容器や神経にトラブルが生じると、持続的な反射信号が出され、それが他の受容器の反射を引き起こし連鎖を起こしていると考えられます。

例えば、大腿部の一部に圧痛点を見つけたとします。

その部分を押したまま、股関節の位置、膝関節の位置、足首の位置を変化させます。
いろんな方向に動かしている内に、圧痛部位がフッと弛む時があります。
これは圧痛部位に緊張を与えている関節や靱帯、腱などの反射が低減したことを示しています。

このように、深部感覚受容器は互いに影響し合って、ある部位に過緊張状態をもたらし、そのために自己回復出来なくなっているという視点を持つことで、施術の幅が広がり施術効果を高める事ができます。

5)トライムーブ(TRIM)

一般的な施術に於いては患者さんは受動的に施術を受け続ける事が多いのですが、操体法やPIR(ポスト・アイソメトリック・リラクセーション)などでは、患者さんに動いて頂き、筋の反射を利用した施術が行われます。

トライムーブはポイントとなる部分を押圧したまま、三つの動きをして頂く事で、押圧の効果を身体全体に広げようとするものです。

私たちは複雑な動きをする事ができますが、分解しますと次の三つの動きに集約できます。

①前後屈
②左右側屈
③左右回旋

つまりこの三つの動きをして頂く事で、体を動かす事に使われるすべての筋骨格系が働きます。
自己回復できなくなっている所は、そこだけの問題では無く、他の部位からの様々な影響を受けてそうなっていますので、自己回復できるようになるためには、全身の連鎖を変化させる必要があります。

トライムーブは座位や立位ですと三つの動きがしやすいのですが、臥位の場合は動ける範囲が制限されますので、施術をする時の姿位で、動ける動きだけをして頂いても一定の効果が出ます。

6)神経ー筋テクニック

神経と筋は親子の関係のように密接に関連していますので、神経の機能障害は筋に影響し、筋の機能障害は神経に影響します。

神経の出口や通り道で筋・筋膜の障害が起きますと、神経の機能障害が生じ始め、神経の走行に沿って筋の機能障害がへと連鎖して行きます。

神経走行部位・神経叢へのアプローチ

上記のことから、坐骨神経や腓骨神経など主要な神経が走行している所で筋・筋膜のトラブルが起きると、神経にも影響し神経の機能が低下します。

この機能低下によって、その支配下にある筋・筋膜の機能が低下するという悪循環が始まります。

そこで、主要な神経の走行部位をチェックし、筋・筋膜のトラブルを解除する事によって、神経も筋・筋膜も機能が回復して行きます。

また、頚神経叢、腕神経叢、腰仙骨神経叢などの主要な神経叢も上記の理由から、神経と筋・筋膜の機能を回復する上で重要なポイントとなります。痛みだけでなく「怠い」「重い」などの症状がある場合は特にチェックして下さい。

脳神経系(中枢)へのアプローチ

痛みは脳で認識されていますので、痛みの原因がなくても脳の誤作動で痛みを感じる事があります。幻肢痛などもその一つとして挙げられます。

下図のように各種感覚受容器からの入力は下垂体を通じて生体恒常性が影響を受けます。
さらには、大脳辺縁系にも信号が伝わり感情面にも変化が生じます。

このようなことから、末梢神経のトラブルを解除することも大切ですが、頚部、顔面、頭部などの筋膜や骨膜などのトラブルは、脳神経系の機能を障害している可能性が高く、これに対処することも痛みや不定愁訴の治療に有効です。

頭頚移行部の重要性

頭部から頚部へ移行する部位を「頭頚移行部」と呼び、生理学的にも力学的にも重要な部分とされています。
交通事故や転倒などで障害を受けやすい部位で、障害を受けるとめまいや吐き気などの自律神経失調症状や、手足のしびれなど、全身性の症状を引き起こすことが知られています。

頭頸移行部は全ての方向に広範囲な運動性を示し、華奢な頸椎の上で重い頭部のバランスを保っている。生理学的には緊張性頸反射が起こる部位であり、また、体幹の姿勢筋系全体に影響を与える部位でもある。
この部位の機能が障害されると、姿勢筋の過緊張、平衡障害、そして運動の欠損が起こることが極めて多く、頸椎による代償が必要となる。これは回旋運動においてもっとも重要である。またこの部位のブロックでは、僧帽筋、肩甲挙筋、胸鎖乳突筋のトリガーポイントが顕著にみられる。

Karel Lewit

左図の様に頭頚移行部の上部には、「脳幹」「小脳」「大脳基底核」といった、姿勢の維持や運動のコントロールに関係する重要な部位があります。そのため頭頚移行部の障害は全身性のものとなり、そのチェックと介入は優先的なものになります

さらには、頭蓋からの三叉神経の出口や、眼窩上孔、眼窩下孔、オトガイ孔などの神経の出口付近でのトラブルは、顔面の筋・筋膜に影響すると共に、中枢神経系への影響も考えられます。

7)リンパ液循環改善テクニック

体のどこかに障害があると、それをカバーするために過剰に使われる部位が出現し、その部位は過緊張状態となり、その結果血液やリンパの流れが悪くなります。

隔膜の重要性

姿勢の維持や運動機能などの維持のため、体内を区画し「腔」を作る事でそれが可能となっていて、区画を構成している組織を「隔膜」と呼び、この隔膜が過緊張状態となると「腔内」の圧が高まり、血液やリンパ液循環不全が生じます。

特に横隔膜は身体の圧のコントロールをしている重要な組織であり、これのチェックと施術は必須です。
横隔膜を中心として、体内を区画している「隔膜」を弛めることで、リンパ液や血液の循環がよくなり、さらには神経系の働きも活性化します。

8)内臓反射テクニック

下図のように、一つの分節内で内臓と筋肉は密接な関係にあります。
従って内臓の疾患や機能低下が筋・筋膜に影響したり、逆に筋・筋膜が内臓の機能低下に関与する事もあります。
Karel Lewitは次のように述べています。

MelzacとWall(1965)、そしてMilneら(1981)は、一つの分節内のすべての構造から来る侵害刺激は、脊髄基底核の第5層の細胞に集まることを示した。これはもちろん椎間関節の関節包内の受容器から来る痛みや、内臓から来る痛みにもあてはまる。従って、運動系が内臓痛を模しやすく、内臓痛が運動系の痛みを模しやすいことや、これが鑑別診断において考慮すべき重要な部分を構成している事は容易に理解出来る。

Karel Lewit

そこで、患者さんが訴える痛みは「内臓の機能低下」から来ているのではないか?という視点を持つことは大事ですし、実際、内臓の機能低下の影響を受けた筋・筋膜のトラブルは一般的に見られます。内臓と筋・筋膜の関連性を学び、手技によって機能を回復させることは、患者さんの全般的な健康度のアップにつながり、痛みの改善に役立ちます。

9)痛み教育(心理療法)

施術は認知行動療法

施術に於いては、身体へのアプローチが主体と考えられていますが、患者さんの「信念」や「価値感」に痛みを慢性化させたり、増幅してしまうような側面があった場合は、それらに気づいて頂く為のさまざまなメッセージを伝えたりアドバイスする事も治療の一環となります。

また、ウォーキングを行うようアドバイスをしたり、メディカル・ヨガ(痛みのセルフケア)をお伝えして、行動に働きかけることによって治療効果を高めるアプローチもありますし、気分(感情)の取り扱い方をアドバイスする事で、痛みが軽減する事もありますので、施術の場というのは、まさに『認知行動療法』そのものであると言えます。

<認知行動療法>

(前略)思考の論理上の誤りに修正を加えることを目的としており、認知、感情、行動は密接に関係しているとされる。
(中略)認知行動療法は、うつ病、パニック障害、強迫性障害、不眠症、薬物依存症、摂食障害、統合失調症などにおいて、科学的根拠に基づいて有効性が報告されている。

Wikipedia

痛みの生理学についての情報提供

痛みの原因が「加齢の為だ」などといった間違った情報を正しいと思い込むと、加齢は変えることが出来ないため諦めてしまう気持ちになります。このように誤った情報によって痛みを増幅したり治り難くなっている様な場合、この情報=認識を書き換える事が治療の一環となります。

現代医療は構造的な欠陥や加齢が痛みの原因だとし、それに基づいた治療が行われていて、痛みの多くは筋・筋膜のトラブルだという視点がありません。

構造的な欠陥が原因であれば手術が必要となり、これは心理的、経済的、社会的な負担が大きく、手術をしたくない方はこのジレンマに苦しみ、また、加齢が原因であれば、改善の余地はなくあきらめる他ありません。

このような事が痛みが増強したり治り難くしてしまいます。

こういった誤った認識を換えるだけで、気持ちが楽になり痛みが軽減するという症例が数多く見られるますので、「痛みの生理学」を伝える事が治療の一環となります。

痛みの生理学の例

パトリック・ウォール著「疼痛学序説椎間板ヘルニアの手術は、もてはやされたこともあったが、疑問が増し続けている。
ヘルニアの突出と痛みはそれぞれ独立していて、痛みの発現におけるヘルニアの突出の役割ははっきりしない。
以前この手術を熱烈に支持していたマイアミ大学は、今ではこの手術をやめて、厳密なリハビリテーションのプログラムを採用している。

パトリック・ウォール著「疼痛学序説」

5つの異なる職種を対象に、1年間にわたって腰部をMRIで繰り返し撮影した結果、椎間板異常と腰痛や職種との関連性はなく、調査期間中に腰痛を発症した者のMRI所見にも変化はなかった。  

Savage RA et al,Eur Spine J,1997

「10人中9人が手術なしで回復」ずばり、こう指摘するのは、福島県立医科大学(福島市)整形外科の菊地臣一教授。
(中略)「医師と患者が一度は納得ずくで手術を決定したものの、患者が結局、逃げて手術をしなかったという例が結構ある。その中の50例について時間の経過とともに症状がどのように変わったのか、追跡調査を行ったわけです」。

常識的に考えれば、医師が手術は必要と判断したのに、息者がいうことを聞かず逃げてしまったのだから、患者はその後も苦しんでいるーそう思っても不思議はない.ところが、調査結果は驚くべき内容になってしまった.

「5年たった後に追跡調査して.みると、あれほど腰痛に苦しんでいた患者50人のうち、『症状なし』と答えたのが、じつに50%の25人もいた。次いで『症状はあるが障害なし』という人が、40%以上、そして日常生活に困るような『障害あり』という人はたった2人。
5年たってみたら、10人のうち9人以上がよくなっていたというわけなんです」(菊地教授)
(後略)

「椎間板ヘルニアは手術無しで治る」大朏博善(週間文春)
コンテンツ作成・責任者:佐藤恒士(さとうつねし)


整体治療歴約25年。自力整体法、長谷川淳史先生のTMSメソッド、石川県小松市の整形外科医、加茂淳先生からトリガーポイント療法等を学び、現在は、トリガーポイント理論を多くの方に広める為にトリガーポイント研究所を設立し筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の啓蒙活動と後進の育成に力を注いでいます。詳細はこちらを参照ください。