治療というのは、体に何らかの刺激を与えて、それに対して生じる「反射」によって、患者さんが求める結果へ導くものです。
体は刺激が与えられると、必ず反応を起こしますので、どんな治療法でも体は変化します。
その変化がプラスに向かう事もあれば、マイナスに向かう事もあります。
反射という作用を使って「患者さんが求める結果」へと導くには次の3点が必要だと考えています。
①洞察力と的確な診断
②診断で得られた原因に応じたテクニックを使う
③日常のアドバイス
当研究所でお勧めしている治療法とその背景理論をご紹介致します。
1)筋筋膜性疼痛症候群
激しい運動等の過負荷により筋肉が微少損傷を受けた場合、その部分の筋肉が収縮して、一般に言う筋肉痛の症状が現れ、通常は数日から数週間で自己回復する。しかし、回復の過程でさらに過負荷をかけたり、冷やしたりして血行の悪い状態にすると、この収縮が元に戻らなくなり、筋肉が拘縮状態になり痛みを発生し続ける。この状態を「索状硬結」または「筋硬結」と呼び、索状硬結部位へ物理的に力を加えると強い痛みを感じる事から、この状態の部位を圧痛点 (Tender Point) と呼ぶ。
Wikipediaより
①構造的アプローチから機能的アプローチへ
現代医学は椎間板ヘルニアなどの構造の変化が痛みの原因としていますが、痛みの多くは筋の機能的なトラブルです。パソコンやスマホで、機器自体が故障することよりは、OSやアプリケーションの機能的なトラブルの事が多いように、私達の痛みは運動系の機能障害がほとんどです。
そこで、従来の「構造の異常」説から「機能の異常」説に視点を切り替える必要があります。
②筋筋膜性疼痛症候群の特徴的症状
筋筋膜性疼痛症候群の特徴的症状は「関連痛」と「不定愁訴」です。
関連痛
トリガーポイントが出来ている部位ではなく、他の部位で痛みや違和感を感じる現象。神経の走行と関連のないので神経痛ではなく「関連痛」と呼ばれる。
不定愁訴
トリガーポイントは持続的に筋拘縮を起こしている部位に生じ、この筋拘縮の信号が周囲の神経伝達のシステムを阻害していると思われます。
問診時に不定愁訴があれば、そこから罹患筋を推定する事ができ、重要な指標となりますので、「痛み以外にお困りの事はありませんか?」と尋ねることも大切です。
筋筋膜性疼痛症候群の特徴的症状は「関連痛」と「不定愁訴」です。
【TPが起こす症状の例】
・狭心症 ⇒ 斜角筋、大胸筋のTP
・不整脈 ⇒ 右大胸筋のTP
・手の痺れ ⇒ 斜角筋、小胸筋のTP
・手のむくみ、こわばり⇒ 斜角筋
・頻尿 ⇒ 腹直筋のTP
・めまい ⇒ 胸鎖乳突筋、僧帽筋のTP
・転倒、バランスの悪さ⇒ 胸鎖乳突筋のTP
・耳鳴り ⇒ 咬筋、翼突筋、胸鎖乳突筋の連鎖
・息が切れる ⇒ 前鋸筋
・胸焼け、膨満感 ⇒ 外腹斜筋・腹直筋上部
・げっぷ ⇒ 臍部のTP
・疲労感、全身性の緊張⇒ 項筋
・船酔い、車酔い ⇒ 胸鎖乳突筋(鎖骨部)
2)分節内のリンクの視点
施術において知っておかなくてはならない概念は「分節内のリンク(下図)」です。
一つの神経を共有している「内臓」「筋」」「皮膚」と「脊椎の動き」は互いに影響し合っているという概念です。つまり、筋のトラブルは筋だけの問題では無く、他の障害の影響を受けるという事です。
①見逃しがちな内臓機能低下と筋との関係
侵害刺激を引き起こしている内臓疾患があると、対応する分節に筋性防衛による、反射性のスパズム(痙攣)が生じる。特に脊柱起立筋の深層ではこうしたスパズムが起こりやすい。
Karel Lewit
全身性の症状の方、なかなか治りにくい方の場合は内臓機能の低下をきたしている事が多く、内臓機能へのアプローチが必須となります。
②皮膚の影響(瘢痕)
皮膚は影響を受ける事が多いのですが,手術痕や火傷痕は筋の過敏性などを起こします。
充分に治癒しなかった術創や化膿部位は電流の抵抗が大きく増加したり、減少したりする。このことによって神経関連の症状だけでなく、直接には関係しない構造内の症状も引き起こす。このようにして瘢痕は局所的な痛みを引き起こし、そこの神経信号を変化させ、同じ神経セグメント(分節)の筋肉グループの機能を低下させる。また病変から離れた自律神経の障害やその他の神経疾患を引き起こすことがある。
Huneke
3)深部感覚受容器反射の視点
筋膜・骨膜・関節・腱・靱帯などの深部感覚受容器は、体の各部分の位置や運動の状態などを伝え、姿勢の維持にも関与しています。
そのため、深部感覚受容器が障害を受ければ、さまざまなトラブルの原因となります。
深部感覚受容器は互いに影響し合っているため、それらを総合的に診断し施術する必要があります。
4)筋膜・骨膜の連鎖
姿勢を維持したり、身体を動かす時には、個々の筋肉としてではなく、筋膜の連鎖(筋膜ライン)を使っていますし、その動きを効果的にするために、支持するライン、固定するラインなど全身の筋膜が連鎖しています。
その為、捻挫やむち打ちなどの障害を受けたり、家事や労働、スポーツなどで、特定の筋を過剰に使用するなどして筋が損傷しますと、その筋が属しているライン上に影響が出始め、それが全身性のものとなって行きます。
このように筋膜が全身の繋がりの中で働くには、神経系の働きも当然必要で、筋膜のトラブルは神経系へも影響し、神経系のトラブルは筋膜に影響します。
5)神経と筋のネットワーク
神経と筋の間に相互作用があるということから、神経の通り道である部位に、筋・筋膜のトラブルが発生すると、「知覚異常」「筋力低下」「自律神経失調症状」が出現します。
従って神経に於ける分電盤の役目を果たしている「神経叢」や坐骨神経など主要な神経が走行している周囲で筋・筋膜のトラブルが発生すると、より広範囲に影響が出ると考えられます。
また、全身麻酔をすると、全身の筋肉が弛緩する事から、筋の過緊張は中枢が影響している可能性が指摘されています。帽状腱膜、顔面の筋、胸鎖乳突筋や僧帽筋など脳神経支配の筋・筋膜にトラブルがあると、中枢内の信号を乱したり、混線させている可能性が考えられ、これらの筋・筋膜や腱膜のトラブルを解除することで、全身の筋の緊張が変化する事が考えられます。