【慢性痛を治すポイント】
痛みや不定愁訴で長期にわたって苦しまれている方々からのご相談を受けていますと、次の3つの点が浮かび上がってきます。
①適切な治療を受けていない
②治癒力を阻害している要因が治療されていない
③こころのケアがされていない
これらは互いに影響し合い、痛みや不定愁訴を長引かせる要因となります。
1) 「適切な治療を受けていない」
慢性痛で困っている方の多くは、筋筋膜性疼痛症候群の視点での治療を受けられていない為、椎間板ヘルニアとか脊柱管狭窄症などと言った構造的な問題としてとらえられ、適切な治療を受けられていない事が挙げられます。
また、「関連痛」の事が知られていない為、「痛む場所」への治療ばかりが行われ、原因となっている部位への治療が行われていない事も大きな要因です。
2) 「治癒力を阻害している要因が治療されていない」
「トリガーポイント・マニュアル」を著したトラベル博士らは、『治癒力を阻害している因子への治療を最も重要視している』と書かれています。
治癒力を阻害する因子はいろいろありますが、私は次の3つを特に重要視しています。
① 栄養素の過不足
② リンパ液の停滞
③ 内臓機能の低下
この3つはいずれも細胞の活力を低下させます。細胞の活力が低下した状態では、どんな治療を行っても、効果は上がりにくく、治療の効果が長持ちしません。
従って、痛みの原因となるトリガーポイントへの治療に優先して、もしくはトリガーポイントへの治療と並行して、治癒力を阻害している要因への治療が行われなければなりません。
① 栄養素の過不足
植物を育てられた方はご存知と思いますが、肥料が多すぎても足りなくても植物は上手く育ちません。これはヒトでも同じ事で、栄養素の過不足がありますと治癒力が低下することは言うまでもありません。
トリガーポイント・マニュアルにも「慢性痛患者の半数以上にビタミン・ミネラル不足がみられる」とし、ビタミン・ミネラル不足は神経系の刺激受容性を増大させるとしています。つまり刺激に対して過敏に反応すると言うことで、健康であれば感じない様な事でも、侵害刺激と受け取って、過剰な反応を引き起こす事になります。
ビタミン・ミネラルが不足してしまう原因として「糖質過多」が挙げられます。白米、麺類、パン、お菓子などは糖質ですが、これらのほとんどが精製された原料や砂糖が多く使われていますので、ビタミン類の含有量が少ないのです。
糖質の代謝にはビタミンB群が必要ですので、身体中のビタミンB群が消費されてしまいます。
分子整合栄養学の書籍を数多く出版されている溝口徹医師はその著書「薬がいらない体になる食べ方 (青春新書INTELLIGENCE) 」で次のように述べています。
「鉄不足、糖質の摂りすぎでも頭痛は起こる」頭痛持ちのヒトは痛みが出たら薬を飲む、ということの繰り返しになりがちだが、これには栄養が関係している可能性が見逃せない。その栄養とは鉄。鉄が不足していることで頑固な頭痛が起きている事が少なくないのである。(中略)低血糖症の中に、通常の食事や甘い物を食べた後に血糖値の急激な上昇、下降が起きると、下がりすぎた血糖値を上げる為に、たくさんのホルモンが分泌され、その影響(アドレナリン、ノルアドレナリン、など興奮系の神経伝達物質の大量分泌)で頭が痛くなるタイプがある。
トリガーポイント研究所に相談に来られた方には「栄養素の過不足の弊害」について必ず説明していますが、「首や背中の違和感が減った」「痛みが治りやすくなった」「疼く様な痛みが無くなって驚いた」など多くの方がその効果を実感されています。
② リンパ液の停滞
リンパ液は細胞に栄養酸素を運び、細胞の活動で生まれた老廃物を除去する働きを担っています。従ってリンパ液の停滞は細胞の活力を低下させると共に、細胞の危機状態ですので、発痛物質が産生されて、痛みを感じたり筋が緊張するなど、痛みを増強、慢性化させる方向に進みます。痛みが治りにくく、むくみや冷え、身体の怠さなどを感じる場合はリンパ液の循環を高めるようなエクササイズや治療が優先されます。
③内臓機能の低下
内臓機能の低下の中でも、消化器系の機能低下はよくみられます。消化器系の機能が低下すれば細胞の栄養状態も低下し、細胞の活力は失われて行きます。
また、内臓疾患は筋の緊張を引き起こすという研究も多く見られます。
カレル・ルイ博士は内臓機能と筋の緊張について次のように述べています。
「対応する分節に反射性のスパズムが起こるし(筋性防衛)、特に脊柱起立筋の深層にはこうしたスパズムが起こりやすい。(中略)HansenとSliak(1962)は内臓疾患時に特有な側湾症について述べている」
筋や筋膜への治療をたびたび受けながらも、なかなか治癒が進まないような場合は、内臓機能のチェックと治療が必要です。
3)心のケアがされていない
私たちは髪や肌の手入れをしたり、エクササイズなどで身体のケアはしますが、心のケアをしている人は少ないものです。ところが私たちは成長の過程で学習したそれぞれに特有な「モノサシ(モノの見方や考え方)」を持っており、それが偏っていることには気づきにくいものです。
また、痛みや不快な感情が長年にわたって続きますと、健康なときには笑って過ごせたような事でも、過敏に反応してしまい、イライラしたり、当たり散らしたり、落ち込んだりしてしまうこともよく経験することです。
心と身体は一体ですから、心の状況は身体へ影響を与え、身体の状況は心に影響を与えます。
信頼できる方に話を聴いて頂いたり、プロのカウンセリングを受けるなどで心が軽くなり、痛みの感じ方が低減したり、治癒力が賦活する事は慢性痛から立ち直った方々からよく聴く話です。
また、痛みと心の関係を説いた書籍を読むだけで痛みがずいぶんと軽減される方もおられます。
トリガーポイント研究所会員の鳴嶌慶太郎さんが書かれた「腰痛体験記」にも読書療法の事が書かれていますので参考にされて下さい。
コンテンツ作成・責任者:佐藤恒士(さとうつねし)
整体治療歴約25年。自力整体法、長谷川淳史先生のTMSメソッド、石川県小松市の整形外科医、加茂淳先生からトリガーポイント療法等を学び、現在は、トリガーポイント理論を多くの方に広める為にトリガーポイント研究所を設立し筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の啓蒙活動と後進の育成に力を注いでいます。詳細はこちらを参照ください。