動作痛の原因筋を推定する
トリガーポイントが起こす「関連痛」という現象があります。これは筋肉に生じたトリガーポイントが、その場所では痛みを感じず、他の部位で痛みを感じさせるという現象です。特に腰や背中で感じる痛みは関連痛であることが多く、痛みを感じている所には原因がない事が多いのです。その為、「何処で痛みを感じているか?」ということより、「どの筋肉がトラブルを起こしているのか?」という事が、痛みの原因となっている筋を探しだす上で重要な視点となります。
動作で痛みを感じるということは、当然のことですが、身体を動かす=筋肉に力が入る(筋が収縮する)ときに痛みが生じるわけですので、痛みを感じている場所にかかわらず、最も力が入っているところが痛みの原因となっている可能性が高いということになります。
1)動作痛の原因筋推定原理Ⅰ
「負の情動は屈曲に現れる」・・・これはフェルデンクライス・メソッドを創始したフェルデンクライスの言葉です。筋肉を「働き」で分類しますと、身体を曲げる為の「屈筋」と身体を伸ばすための「伸筋」に分ける事ができますが、「負の情動が屈曲に現れる」というのは、マイナスの感情の影響は「屈筋」の方に出るということです。
仕事や家族関係での心理的緊張や、痛みや不快な症状が長く続く事も「屈筋」を緊張させます。
また「ビックリ反射」などと言われる、追突された時のような突然の刺激を受けたような時に、私たちは身体を守ろうとするために防御する態勢をとりますが、この防御の為に使われるのは「屈筋」です。
さらに、交感神経が優位となりますと、屈筋に緊張が現れる事が知られています。
従いまして、マイナスの感情や突然の刺激、心理的な緊張などは、屈筋に緊張をもたらしますので、伸筋よりも屈筋にトラブルが生じる可能性が高いという事を示唆しています。
2)動作痛の原因筋推定原理Ⅱ
正常な筋を使って動作を行っても痛みが生じませんが、トラブルを起こしている筋は、動作をするときに痛みが生じます。ということは、トラブル筋は筋肉に力が入った時に、それに反応して痙攣を起こしていると考えられます。
筋肉の収縮の仕方には3通りあります。
- 筋肉が伸びながら力が入る「伸張性収縮」
- 筋肉は短くなりながら力が入る「短縮性収縮」
- 筋肉の長さには変化がないが力が入っている状態の「等尺性収縮」です。
また、トラブルを起こしている筋は、他動的に筋肉が短縮させると、力が入っていないにもかかわらず痙攣を起こし始め、痛みが生じるという現象があります。これを「短縮痛」と言います。
この事から、筋肉に力が入る3つの現象の中では、筋肉が短くなりながら力が入る「短縮性収縮」の時がもっとも痛みを感じる可能性が高いという事になります。
3)腰痛の原因筋の見つけ方
上記の2つの推定原理をまとめますと、痛みを感じている部位に関わらず、「屈筋で、短くなりながら力が入っている所」に原因がある可能性が最も高い、と言うことになります。この原則から腰痛の原因筋をみつけてみましょう。
まず、下記の「腰痛の原因の見つけ方」チャートをご覧下さい。
座位でチェックする
1)立った状態で動作をして腰痛が起きる場合、さまざまな筋が関与しますので原因筋を推定することが難しくなります。そこでまず座った状態でチェックします。
2)腰痛の原因は脚にある!?
立った状態では腰痛を感じる方でも、椅子などに座ると痛みが楽になったり、痛みが消失する方がいます。腰を曲げる動作は同じなのに、痛みが軽くなったり消失する、というのは何が変わったからなのでしょうか?
立った状態と座った状態で変わった点は「脚の筋肉を使わなくなったこと」です。つまり脚に力を入れずに腰を曲げたら、痛みが軽くなるというのは、脚の筋に原因があるのではないか?という事を示唆しています。
「関連痛ってなに?」のページに示しましたように、ヒラメ筋にできたトリガーポイントがほっぺたに痛みを飛ばすのですから、脚の筋が腰に痛みを飛ばすのは予想できることです。実際、座ると腰痛が楽になるタイプの方は、大腿四頭筋などのトリガーポイント探して弛めますと、腰痛も楽になります。
座っても痛むタイプの腰痛① 「前屈で痛む」
椅子に腰掛けてもやはり腰が痛む、という場合どこに問題があるのでしょう。
痛みを感じるのは「腰」周囲ですので、どうしても腰に意識が行ってしまいますが、実は腰痛の70%程はお腹側の筋を弛めることで解決します。
ここで、先ほどの「動作痛推定原理」を思い出して下さい。 椅子に腰掛けて前屈するときに短くなっている屈筋はどこでしょう? 実際に椅子に腰掛けて前屈してみて下さい。お腹側の特に脚の付け根のあたり(そけい部)の筋が短くなることを確認的ルと思います。
前屈で腰が痛む方は両方の下腹部を親指でぐ~っと押さえて前屈してみて下さい。腰の痛みが和らぐのを感じられると思います。
下図をご覧下さい。体幹部の代表的な屈筋であります「腸腰筋」という筋肉です。「×印」はトリガーポイントの出来やすい位置を示していますが、痛みは腹部ではなく、腰の脊柱の際や大腿部で感じる事を示しています。前屈で腰痛を感じる方は、そけい部の×印の辺りにトリガーポイントが出来ていて、それが前屈の動作の時に痙攣を起こし、腰に痛みを飛ばしている可能性が高いのです。
座っても痛む腰痛タイプ② 「後ろ反りで痛む」
では、後ろ反りで痛む場合はどこに問題があるのでしょう?
椅子に腰掛け、背中に手を当てて後ろに少し反ってみてください。腰の筋肉は力が入って硬くなるどころか、むしろ弛みを感じると思います。
今度は、胃の辺りの「腹直筋」を指で押さえておいて後ろ反りをしてみて下さい。腹直筋がグッと緊張して硬くなるのを感じられたと思います。つまり、私たちは後ろ反りをするときには腹直筋に力を入れているのです。
白い×印の所が、腹直筋でトリガーポイントが出来やすい場所ですが、胃の辺りの上部のトリガーポイントは肩甲骨の下部に痛みを感じさせ、恥骨に近い下部のトリガーポイントは仙骨から腸骨上の腰に痛みを感じさせます。
後ろ反りで痛みを感じる方は、次の様なエクササイズを行って下さい。
- 椅子に腰掛けて背中を丸め、お腹を弛めます。
- 親指もしくは拳固で腹直筋を挟みます。
- 腹直筋を挟んだまま、ゆっくりと大きな深呼吸を数回繰り返します。
- 息を吐くときに挟んでいる力を少し強めます。
このエクササイズを行った後、軽く後ろ反りをしてみて下さい。腰痛がかなり減ったのを感じるでしょう。
コンテンツ作成・責任者:佐藤恒士(さとうつねし)
整体治療歴約25年。自力整体法、長谷川淳史先生のTMSメソッド、石川県小松市の整形外科医、加茂淳先生からトリガーポイント療法等を学び、現在は、トリガーポイント理論を多くの方に広める為にトリガーポイント研究所を設立し筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の啓蒙活動と後進の育成に力を注いでいます。詳細はこちらを参照ください。