トリガーポイント研究所
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第十三話「近眼と眼鏡」

小学校四年生の時、父に連れられて当時の到津球場(戦時中に畑となり、今は住宅地となってしまったようだが)に野球見物に行った時のことである、はじめスタンドの上の方に立っていたのだが、球がよく見えないので、だんだん下に下りていって、とうとう最前列まで来てしまった。それでも球がボンヤリとしか見えないので、はじめて私が近眼であることに父が気づき、球場からまっすぐ街の眼鏡屋に行き眼鏡を買って貰った。その時の検査では、確か0.4ぐらいの近視であったと思うが、はじめて眼鏡をかけて往来に出たら、道行く人の表情から、ずっと向こうの店の看板、電信柱の広告文字、さらには電線にとまっている雀まで、あまりに明瞭に見えるのに驚いてしまった。
遠くの山の頂に一本高くそびえる松の木があることも、その中腹に赤瓦の屋根の二階家があることも、この時初めて知った。たった一つの眼鏡で急に世の中が明るく、楽しくなって駆け出したくなるような気がしたものである。
翌日初めて眼鏡をかけて登校する時は、まことに気恥ずかしい思いであったが、学校で友達からジロジロ見られるのも、二、三日のことですぐに慣れてしまった。もちろん当時の眼鏡はすべて円形で、今のような形のものは無かったが、こうして眼鏡のお世話になる人生が始まった。その後も度が進み、そのたびに眼鏡を買い換えてきたが、今までに幾つ眼鏡を買ったか数え切れない。
私の父も軽い近視と乱視があり、眼鏡をかけていたから、遺伝体質があったのかも知れないが、私が近眼になったのには、病床での読書がその一因だったのではないかと思ったりする。
眼鏡を必要としない人には分からないだろうが、眼鏡をかける生活というものは、ずぶんと不自由なものである。朝食の熱い味噌汁をかかえると、途端にパーッと眼鏡が曇ってしまって、汁の中に何が入っているか分からない。スポーツをすると、汗で眼鏡がずり落ちてきて始末が悪い。夜、寝る時は枕元に置いて寝なければ、いざというときに困るが、枕元を通る人が踏み割りはしないかと気が気でない。悲しくて泣く時は、眼鏡をはずさないと涙を拭えない。今ではコンタクトレンズなどという便利なものがあるようだが、泣いた時はどういう具合なのだろう。
つい先日散髪した時も、「旦那、こんな具合でいいですか」と鏡に向かって床屋のおやじは言うのだが、こちらは眼鏡をはずしているので、鏡に映っている自分の顔はボンヤリ見えるが、どんな髪型になっているかサッパリ分からない。この年になって今さら髪型でもあるまいにと、多少なげやりに「ああ、いいよ」と応えてしまったが、後で眼鏡をかけて、よくよく鏡を覗いてみたら、刈り込みすぎて、まことに不格好な出来上がりであった。
いろいろ不便な経験があるが、とりわけ難儀したのは軍隊に入隊したときである。軍隊には毒ガス用の防毒マスクというものがあった。学生時代、剣道のお面をつける時も苦労したが、この防毒マスクを被るときは、格別眼鏡が邪魔して顔面にピッタリ装面することがむつかしい。どう工夫しても多少のすき間ができる。日常防毒マスクを被って単なる駆け足行軍などのときは、この隙間から空気が入って、むしろ呼吸がしやすく楽なのだが、実際に催涙ガスを使っての演習は悲劇である。この隙間から容赦なくガスが侵入して、涙は出るわ、鼻汁は出るわで苦しくてたまらない。おまけにマスクを被っているから涙を拭うこともできない。視界はモーローとしてどちらに進んで良いか分からず、ウロウロしていたら上官からひどくどやされてしまった。
また初年兵の間は外出も許されないし、部隊の中に眼鏡屋があるわけでもないので、眼鏡を破損したらたちまち生活不能者となる。入隊前にそんな話を聞いていたので、あらかじめ予備の眼鏡を二つ買い、都合三つの眼鏡を持って入隊した。
演習の時は眼鏡のツルの両端に紐を結んで、激しい運動にも飛ばない用に要心したり、古兵(先輩の兵隊)にぶん殴られる気配がしたら、サッと眼鏡をはずして手に持つなど、随分と注意していたにもかかわらず、内地勤務二年の間に二つ破損してしまった。私の場合この程度の事ですんだが、戦地に赴いた近眼の兵士には私達の想像も及ばぬ苦労があったことだろう。
私の父は五十歳をこえた頃から老眼の域に入ったのか、次第に眼鏡をかけなくなり、一時は全然眼鏡を必要としなくなった。そういう時期を二、三年経過して、今度は老眼鏡をかけるようになった。だから私もそういう経過を辿って老眼へ移行していくのだろうと、ひとりぎめしていたが、私の場合は父より近眼の度が強かったためか、四十代に入った頃から、遠方を見る時と手元の書類などを見る時と、度の異なる二つの眼鏡を必要とするようになった。
こうなると今まで以上に極めて不便なものである。書類を見ている時に来訪者があると、その度に眼鏡をかけ替え無ければならない。事務用の眼鏡を自宅に置き忘れて出勤したりすると、その日一日仕事にならない。かといって眼鏡の中央に区切り線の入った両用の眼鏡は、いかにも年寄り臭くて、なかなかかける気にならない。
六、七年前から、野球の別当監督のテレビ・コマーシャルで売り出されているバリラックスという区切り線のない遠近両用のものがあるようだが、私のように二つの度の落差があまりに甚だしいものを作るのはなかなか大変なようで、随分高価につくと聞いては、バリラックスにする決心もつきかねていた。しかし東京経営学院の講師として教壇に立つようになってからは、生徒の方を見たり、テキストの小さな字を見たりするのには、どうしても両用のものが必要になった。こんな事情でとうとう年寄り臭い真ん中に区切り線のある両用眼鏡をしぶしぶ使用することになったが、これで名実ともに老境に入ったということであろう。(昭和五十四年)

 ⇒第十四話「霜焼け」

2011年5月17日

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