昭和十九年の一月末か二月の上旬だったか、幹部候補生の試験があった。私達の内務班は学徒兵ばかりであったから、全員が受験した。

私は体力もさることながら、入隊後にやっと軍人勅諭を憶えるという有り様だったから、学科試験でも成績が良くなかったに違いない。結果は私の班で七名程の不合格者が出たが、私もその一人であった。

日ならずして甲種幹部候補生合格者は予備士官学校へ、乙種幹部候補生合格者は教育隊へと、それぞれ転出して行った。そして残された私達七名は、同日入隊した一般現役兵の中に編入された。

その後間も無く、初年兵の一期の検閲があった。初年兵教育のいわぱ卒業試験である。三日間にわたり射撃、行軍、戦闘行動など数種目の実地演習や口頭試問などが行なわれた。

初年兵の多くは、その中の幾つかに参加すれば良かったようだが、私はすべての演習に出場させられ、検閲官の試問も、なぜか私ばかりに集中された。

三日間の緊張と過労で、検閲の終わった翌日には熱発してしまったが、日頃口喧しい班長も、その時ばかりは
「佐藤、ようやった。今日はゆっくり休め。」
と、やさしい言葉をかけてくれたことであった。

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