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九月二十一日 「認知症の恐怖・医学の目的は?」

人間は生まれた時は、自分では何もできず、母親など周囲の人に養育されて次第に大きくなり、やがて大人になる。肉体の成長と同じく、知識や道徳も周囲の環境から摂取してその人格を形成して行く。

そしてある年齢に達すると、肉体の機能は下降線を辿り老衰して、他人の介護を受けなければならなくなる。若いときには考えても見なかったことだが、八十歳を超えた頃から痛感するようになった。

足腰の痛みから両手に杖を頼りとするようになった私は、今では月に一度、タクシーで病院通いをするほかは、室内暮らしを余儀なくされている。

それでも食事・排泄・入浴など最低の生活は、人手を借りずになんとか処理している。今の願いは、この状態のままお迎えが来てほしいと言うことだけであると思っていた。ところが最近物忘れが激しくなり、聴力が衰えるとともに、テレビに登場する新しいカタカナ語が度々理解できず、困惑することがしばしばある。新聞はそれほどでもないが、やはり分からないカタカナ語に出会うことが毎日のようにある。

老妻との二人暮らしでは、若い世代に教えを請うこともできず、手許の広辞苑を開いても二〇〇八(平成二十)年版では、新しいカタカナ語は見当たらない。これでは人間失格ではないかと些か自信喪失したが、ふと、老人性認知症の始まりではないかと心配になってきた。

もう十五年ばかり前に亡くなった義母が、晩年認知症になり、その人格が崩壊するのを目の当りにしたのを思い出した。肉体の老衰も去ることながら、自分の人格喪失ぐらい怖いことはない。生きながら人間でなくなる、考えただけで恐ろしいではないか。

日本は世界一の長寿国ということだが、認知症で家族が持て余している老人も、少なくないのではないか。つい先頃まで、子や孫たちから尊敬され慕われていた実父母が認知症患者となる悲劇が、沢山あるのではなかろうか。それを思うと、本人が希望する者は、認知症になる前に、一服盛って冥土に送って貰いたいものと考える。

今までの医学は、患者の寿命を一日でも伸ばすことを考えてきたことだろうが、長寿が必ずしも幸福とは言えない今日、考えを変えるべきではなかろうか。

医学は人間の幸福を何よりも尊重すべきものと考えるが、どうだろう。諸賢のご意見を承りたい。

2016年10月5日

所長の佐藤です。

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