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「パリとアラブ」

今日の毎日新聞には、論説委員中村秀明氏の「パリだけを祈るのか」と題する次のような論説が載っている。

テロのあったパリを遠く離れた地から発せられた2つの声に、静かな共感が広がっている。
1つはインド人女性でニューデリーに住むカルーナ・エザーラ・パリークさんだ。インターネットで発信し、欧米紙も取り上げた。「パリだけでなく、この世界に祈りを」そんな書き出しで始まる。

パリの事件の前日、レバノンの首都ベイルートでは2つの自爆テロで43人が亡くなった。パリと同じ11月13日には、イラクの首都バクダットで葬儀中に爆発があり少なくとも18人が死んでいる。パリークさんは「報道機関が追いかけないベイルートに祈りを」「もはや、誰も『バクダット』の名を口にしない、そんなバクダットに祈りを」と続ける。

ベイルートでは二人目の自爆犯がモスクの入り口に近づいたところ、とっさに飛びかかって入るのを防いだトルモスさんが死亡した。大勢の命を救った彼の行動はほとんど報じられていない。
彼女は書き綴る。
「着の身着のままで国から国へ何ヶ月も歩き続けた挙句、『どこにも行くところがない』と言われる。そんな人々の世界に祈りを」「パリに祈るのはもちろんだ。だが、もっと祈りを捧げるべき世界がある」
「祈ってくれる人もおらず、身を隠す家もなくした人たちの世界へ祈りを」
「なじみの高層ビルやカフェからではなく、いたるところでバラバラに崩れつつある、この世界のために祈りを」
パリークさんは事件の翌週、ニューデリーで開かれた国際的な女性会議でこの詩を朗読している。

もう一つはシリア出身でアラブ首長国連邦のドバイに住む女性アナウンサー、シャハード・パランさんだ。彼女もインターネットに投稿した。

「愛するパリよ、あなたが目にした犯罪を悲しく思います。しかし、私たちアラブの国々では、毎日を起きていることなのです。世界中があなたの味方になっていることを、ただ羨ましく思っています」

顔をこわばらせ、まなじりを決して「テロの脅威には屈しない」「軍事行動で結集を強めよう」と口にするのは政治家や軍関係者に任せておけばいい。私たちまでそうする事は無い。

彼らが見ようとしないものに目を向け、聞こうとしない声に耳を傾けたい。大きな流れに、ただ身を委ね、想像力を枯らしてはならないのだと思う。

これを見て考えさせられたことを整理してみる。

① イスラム過激派によるテロが頻発するようになって、私たちは、ついイスラム教徒やアラブ人全てがテロリストであるかのような錯覚に陥りがちである。これが一番怖いことである。
先日も取り上げたことだが、グローバル化の時代の流れで、今日では出身地外の他国に永住する人が多くなっている。しかし、それによって異民族間の交流が進み、違いの理解が深まったとは言えないのが現状ではないか。その人種差別が、黒人の大統領を戴き、あらゆる人種のカクテルと思われるアメリカでも、今なお無くなることなく、しばしばトラブルの原因となっている。

とりわけ宗教や生活習慣を異にする場合は、これを乗り越えるのは極めて難しい。これを克服する特効薬はなく、対人関係の摩擦を減らすには、人間は思想、信仰、生活習慣などあらゆる面で一人一人違うものだと言うことを、繰り返し繰り返し自分自身に言い聞かせるしかないと思われる。

② 異国に住む少数派の人々の多くは、周りの人々から特別な目で見られているのではと、常に神経をとがらせで暮らしているのではあるまいか。「警察の職務質問のような小さな事でも疎外感を感じる」と言う若者などがいると言うのは、そうした心理状態の中で日々暮らしていると言う事だろう。

これも簡単に取り除かれる事ではないが、周りの人々が、彼らがそうした心理状態にあることを理解し、日常、折を見つけては声をかけ、世間話などをすることで、ある程度は効果があるのではないだろうか。

③ 「愛するパリよ。あなたが目にした犯罪を悲しく思います。しかし私たちアラブの国々では、毎日起きていることです。世界中があなたの味方になってくれていることを、ただ羨ましく思っています」と言うドバイの女性アナウンサー、シャハード・パランさんの言葉は、とりわけ平和な日本に暮らしている私の胸に刺さった。それと同時に世界の関心に、ある目に見えぬ格差を思い知らされた。

④ 国内の同じ事故や災難でも、被害者が有名人と市井の普通の人では、マスコミの取り上げ方に格段の違いがある。一般読者の関心事を考えれば、ある程度それは致し方ないことだろう。しかし、中には知られたく無いようなことを書かれても、有名税として甘受している人も少なくないと聞いている。巷に溢れる週刊誌には、こんなことまでもと思われるような記事が満載されているようである。

週刊誌の記者を含めて、マスコミの記者は、公益に無関係な個人のスキャンダルを追い回す暇があったら、もっと心温まるような話題や、政治・外交・経済・科学などの分野で、読者を啓蒙する記事を書く努力をしてもらいたいものである。今日、国民教育に最も力のあるのは、新聞・雑誌などのマスメディアにあると私は考えている

(平成二十七年十二月二日)

2016年3月14日

所長の佐藤です。

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