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「フランス流育児」

昨日の毎日新聞に香山リカ女史の「心の万華鏡」コラムに「フランス流育児」と題する一文が載っていた。 いささか目を惹かれたので、その要旨を転記してみる。

フランスで長く暮らした知人と会い、面白い話を聞いた。その人が見たフランスの育児書には「授乳はなるべく早く止めなさい」を書かれており、「生後1ヶ月過ぎたら止め始めても良い」「長くても生後半年まで」などと具体的な指定もあったのだそうだ。

もちろん、フランスではどんな子供の授乳も半年でやめられるわけではないし、最近では「育児は母乳で」といった主張も出てきているそうだが、それでも全体的には「乳離れ」は日本よりずっと早いようだ。

さらに驚きなのは、赤ちゃんと親が同じ寝室あるいはベットで寝る「添い寝」がタブーだということ。生後2ヶ月くらいから子供は両親と別室で寝かせ、夜間は時々親が様子を見に行くだけ、という家庭も少なくないと聞いた。とにかく「赤ちゃんだからと甘やかしすぎない」 「なるべく早く一人前の人間として扱う」のが基本なのだそうだ。

知人は言った。「その成果だと思うけど、フランスでは、幼稚園児でも自分の意見をきちんと持っているし、大人とある程度の議論もできる。『みんなと一緒でいい』なんて子は少ないよ」

その国その社会ごとに歴史も文化も違うし、どこが良くてどこがよくないなどということは無い。ただ、今の日本社会には、学校でも職場でもネットの世界でもいつも「まわりはどうかな」と雰囲気を読むことで神経をすり減らし、必死に自分を多数派に合わせようとして心のエネルギーを消耗させてしまう人たちも少なくない。

その結果ついにうつ病などに陥った人たちに日頃診察室で会っている私には「独り立ちこそ素晴らしい」「甘やかされずに少しでも早く一人の人間として歩き出せるように」というフランス流育児がちょっぴり羨ましく思えた。(以下略)

これを見て私も香山女史と同様いささか驚いたが、フランス式育児で、円満な人格形成に支障は無いのだろうかという懸念を感じた。

最近の日本では青少年の凶悪犯罪が多発して、世相の悪化が目についてならない。私はテレビや新聞を通じて凶悪事件のたびごとに慨嘆するばかりであるが、昔はどうだったのだろう。

老化した記憶を呼び覚ましてのことだが、駄菓子屋での万引きや喧嘩による傷害事件は思い出されるが、十代の子供による殺人事件などはなかったような気がする。
昔の万引きなどの窃盗は、貧しい故のことで「衣食足りて礼節を知る」ではないが、経済的には豊になった今日なお無くならないばかりか、悪質化しているのはどうしてだろう。

そういえば小・中学校生徒の不登校なども、昭和初期には極貧家庭の児童の不登校や、弟妹をおんぶして登校する姿は見られたがそれも多くはなかった。
最近しばしば耳にする我が子殺害や赤ちゃんポストの話題など、あれこれ考えてみると、不心得な親の育児放棄の増加が主たる原因ではないかと思えて来る。
両親の愛情を受けることなく育った子供に、まともな成長を期待する方が無理というものだろう。

調べてみたわけではないから、断言することはできないが、我が子殺害や育児放棄の親は、自らが同様な親に育てられてきた経験者ではなかろうか。未成年者の凶悪犯も親の愛情を知らぬまま育ったのではあるまいか。

考えてみると、昭和三十年代後半から始まった高度成長で、庶民の生活水準は著しく上がったが、同時に都会の人口流入が加速され、家賃を含め不動産価格が高騰し、夫婦共働きが一般化した。

家電製品などが出回り、生活環境は豊かになったが、それを維持するために残業するなどして、育児が疎かにならざるを得なかったのではないか。

経済的には豊かになったかもしれないが、家庭団欒は失われ、幼児は終日託児所暮らし。これでは子どもの人格形成に悪影響は避けられない。

フランスの実情は分からぬものの「子供の早期自立を」と言うのは、私には親のわがままの言い訳としか思われない。

確かに日本では親離れしない子、子離れしない親が少なくない。これも戦前の一家庭に子供が五~六人という時代は、高等小学校(今の中学二年)を卒業したら丁稚奉公など就職するのが一般的で、旧制中学など進学させてもらえるのは、小学生の一割未満であった。

一家庭に一人っ子や、子供は二人と言う今日の家庭では、過保護になりがちで、自立という点では反省すべきであると思う。

育児から自立の切り替えは、子どもの成熟度合いで異なるだろうが、一般的には幼稚園入園時から小学校入学頃までというところではなかろうか。
自分の身の回りの事は自分で処置し、毎日の予定に従って規律正しい生活習慣を、この頃身につけさせるべきものと思われる。

育児と自立は、一見別もののように見えるが、親の子供に対する愛情には変わりはなく、その表現が変わっていくのに過ぎない。
小学生・中学生・高校生と子供の成長に応じて、親の対応もレベルアップして行かなければならない。これを誤り、親がいつまでも子離れできないと子供も親離れができず、いつまでも親のすね限り、いわゆるニートとなってしまう。その時になって後悔しても、もはや手遅れである。世の親の心すべきことである。

(平成二十七年五月二十七日)

2015年11月17日

所長の佐藤です。

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