トリガーポイント研究所
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「足に適(あ)わない靴」

先頃中国の習近平主席が、ロシア訪問の折、モスクワ大学で講演したことが報じられていた。その中で、中国の人権問題について「米国がしばしば批判していることは内部干渉だ。靴が適って(あって)いるかどうかは、履いている足にしか分からない。」と述べたようだ。
これを見て70年前の軍隊を思い出した。私は貧弱な身体で、徴兵検査では第三乙と判定されたが、兵員不足を補ため、現役兵と一緒に入隊させられた。
 
入隊当日、衛門外の集合場所で下着から履き物に至るまで、部隊支給の物に着替えさせられた。新兵の体格は一人一人違うのだが、それぞれのサイズにはお構いなしに、世話係の古年兵が衣類一式を無造作に新兵の足下に放り投げてくれる。私は格別痩せていたから、窮屈で困るなどということはなかったが、靴の大きいのには驚いた。10文半の足に与えられた靴は12文もあるような大きなもので、歩く度にガパガパして歩きづらいことは明らかである。そこで小さめな物と取り替えてもらうべく、恐る恐る申し出た途端、「甘えるな。軍靴に足を合わせろ!」と怒鳴られた。如何したものかと思案していたら、隣にいる初年兵が「俺のも大きすぎるが、つま先にハンカチを入れることにした」と教えてくれた。2年ばかりの軍隊生活の間、ハンカチの世話になったが、慣れるまではずいぶん苦労した。
 
足に適わない靴を履いているか否かは、習近平氏の言う通り他人には分からない。米国の批判は要らざるお節介というのも分からぬではない。アメリカ人は自らの政治体制から生活習慣まで世界最良のものと信じているようである。その限りにおいては差し支えないが、それを他国に押しつけるのは、善意によるものとしても行き過ぎである。米国は世界各地で貧困に苦しむ人々に多額の援助をしているにも拘わらず、あまり好感を持たれていないというのも、善意の押しつけによるものと思われる。
13億の国民を統治し秩序を保って行くには、欧米のような議会制民主主義では難しいこともあるに違いない。そう考えると、習近平氏の発言も分からぬではないような気がするが、現実の中国は、チベットなどでは、その土地の人々の足に適わない靴を無理矢理履かせるような事をしている。その点について習氏は何と説明するのか訊いてみたいものである。
 
(平成二十五年 四月一日)

2013年6月4日

所長の佐藤です。

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